「人の想いは伝わらない。だからこそ、想いを言葉にするための、ある種切ない旅をしている」(ぼくが出会った名言集)

 

 

「人の想いは伝わらない。だからこそ、想いを言葉にするための、ある種切ない旅をしている」(鴨頭嘉人氏)

 

言葉を扱うプロの端くれとして、あるいは、言葉を紡ぐことに喜びを感じる人間の一人として、いつも思うのは、「言葉は不自由である」ということ。これは、冒頭の言葉と合わせて、講演家である鴨頭嘉人氏が話していたことだ。

 

鴨頭嘉人氏を知ってるだろうか。『人生で大切なことは、全てマクドナルドで教わった』という本の著者として認識している人もいるかもしれない。今は自ら講演をしたり、「話し方の学校」というスピーチスキルを教える学校も主催したりしている。いわば話し方、言葉のプロだ。

 

ぼくらは油断すると、「以心伝心」という言葉を信じてしまう。心を込めさえすれば、相手に自分の想いが届くんじゃないかと思ったりする。でも残念ながら、その想いは届かないことの方が多い。

 

じゃあ、言葉にすれば届くのか。これがまた難しいところで、伝わることもあれば、伝わらないこともある。

 

〇言葉は不自由で、万能ではない

言葉を扱うぼくたちが、常に心に留めておいた方が良いこと。それは「言葉は不自由」で「万能ではない」ということだと思う。

 

ぼくたちが言葉を使って伝えたいのは「情報」もあるけれど、実は「感情」であることが多い。情報伝達のための言葉は、比較的簡単だ。ルールに則って、相手が受け取りやすい形にしてあげれば、伝わることが多い。もちろん「簡単」とは言い切れないけれど。

 

ぼくが「言葉って面白いなあ」と思ったきっかけになった例題を、急に思い出した。本題とはあまり関係ないけれど、懐かしいので書く。子どもの頃、確か国語の本で、こんなの例文があった。

 

お風呂屋さんの入口に、こんな立札があったという。

 

「ここではきものをお脱ぎください」

 

さて。皆さんはどう読むだろう。

 

「履物」を脱ぐ人もいるだろうけれど、ひょっとしたら「着物」を脱ぐ人もいるかもしれない。

 

「ここで履物を脱いでください」、「ここでは着物を脱いでください」とあれば、より親切だ。あるいは「ここで、はきものを脱いでください」とすれば、句読点一発で解決したりする。

 

情報を伝える言葉ですら、これだけ混乱を招きかねないのだから、ぼくらが想いを伝えようと思ったら、言うに及ばずである。

 

○想いが誰かに伝わりますように

でも、ぼくらは誰かに(多くの場合は大切な人に)自分の想いを伝えたいと願う。離れて暮らす両親、あるいは子どもに。氣の置けない友人に。共に成長し合う仲間に。愛しく、大切に想う人に。それぞれの関係性において、それぞれに伝えたい想いがある。

 

ぼくの想いが、なんとか相手に伝わりますように、と言葉を紡ぐ。でも、残念ながらぼくらの想いを100%ぴったりと表現できる言葉は、この世にはたぶん存在しない。

 

両親に伝えたい「ありがとう」と、友人に伝えたい「ありがとう」、そして仲間に伝えたい「ありがとう」が、それぞれ全く同じであるはずがない。でも、ぼくらには「ありがとう」の5文字だけが渡されている。

 

だからこそ、ぼくらは自分の想いを託すにふさわしい言葉を探す。その想いが大切で、どうしても伝えたいものであればあるほど、ぼくらの旅は長く続く。

 

想いの総量が大きければ大きいほど、言葉選びは困難を極める。自分の想いを過不足なく、しかも相手が理解しやすく受け取りやすくお渡しするにはどうしたらいいかと、想いを込めて丹念に言葉を紡ぐ。

 

ここまでしても、ぼくらの想いが100%伝わるかどうかはわからない。むしろ、恐らく100%は伝わらない。それはもはや、空気抵抗なしに車が走れないようなものだ。どんな想いも、言葉にした瞬間、わずかにでもズレたり、別のものになったりする。そのズレや違いを可能な限り小さくしようと取り組む。

 

そう。これは本当に切ない。でも、ある意味では愛おしい行為でもある。

 

だからこそ、前よりも多く伝わったとすれば、ぼくにとっては大きな喜びがある。ぼくの想いを受け取ってくれる人が増えることも、ぼくが伝えたかった想いを誰かがよりたくさん受け取ってくれることも、そのどちらもぼくにとっては大きな喜びがある。

 

ぼくがブログを書くのは、ある意味では自分のためだ。

 

そして、このブログを読んで、何かを感じたり、勇気付けられたり、温かい気持ちになったり、楽しくなったりしてくれたら、ぼくにとってこれ以上の喜びはない。

 

そのために、ぼくは言葉を紡ぎ続ける。そして、読んでくれて、ありがとう。

 

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